こんにちは。筆者は「すしログ」という鮨専門サイトを運営しつつ、国内外の料理を食べ歩いて20年の「食の変態」大谷だ。食のために世界を放浪し、石毛直道先生を敬愛して文化人類学を専攻。食べ歩くだけではなく自ら料理することを是としている。
今回ご紹介する「タシデレ(TASHI DELEK)」は、日本では非常に珍しいチベット料理のレストランだ。しかも、チベット料理に馴染みがないほぼ全ての日本人が食べて「美味しい!」と感じるチベット料理だ。

筆者はかつてチベット、ネパール、インドを巡ったが、チベット料理は完全に他の国の料理と異なり、突出した高地民族ならではの固有性を感じたものだ(例えばチベットの首都のラサは標高3,650mで、ネパールのポカラは822mと、差が大きい)。
今回、僕が「タシデレ」を訪問した理由は、こうした経験からチベット料理を懐かしく思ったこともあるが、ヨーグルトを自家製で作っていて、しかも「チベット酒」と名打ってヨーグルトのカクテルを出してると聞いたからだ。
ここでは他の2種類のお酒と合わせて「チベット酒呑みくらべセット」なる魅力的なメニューも提供している。結果として、お料理もお酒も多くの人にヒットする味わいだったので、心からオススメしたい。
それでは、「タシデレ」の魅力を、お伝えしよう。
チベット文化とコミュニティの拠点となる「タシデレ」の魅力

「タシデレ(TASHI DELEK)」は、ロサン・イシさんが2015年6月にオープンしたチベット料理店だ。
ロサンさんはもともとは飲食業でもなく、経営者でもなかったそうだが、チベットの文化を伝えるため、そしてチベットに関心を抱く人のコミュニティを作るために一念発起されたそうである。
ロサンさんはネパールで生まれ、南インドで育った亡命2世なので、店ではチベット料理に加えてインド料理も出されている。「なぜインド料理?」と思う人もいるかもしれないが、インドに亡命したチベット人にとって、インド料理は第二のソウルフードである。
店内にはチベット仏教の祈祷旗である「タルチョ」が掛けられていて、チベットに行ったことがある人、あるいはチベットに関心がある方にとっては、入店した瞬間にテンションが上がる光景だろう。

ここでチベットの歴史について簡単に触れておこう。チベットはもともと独立国家だったが、1949年~1950年に中国人民解放軍が侵攻を開始し、結果的に軍事支配されることになってしまった。
1959年には「チベット動乱」が起こり、高名な宗教家であり指導者であるダライ・ラマ14世はインドに亡命。ダラムサラに亡命政府を樹立した。
支配後は中国共産党の政策で漢民族化が進められ、チベット語の禁止や文化の否定などの民族浄化が行われている。ブラッド・ピットが主演した映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(1997年公開)は、オーストリア人の登山家ハインリヒ・ハラーの自伝がもとになっていて、中国の軍事支配前後のチベットの様子を知ることができる傑作だ。
ダライ・ラマの名前は知っていても、チベットの歴史と文化には明るくない方が圧倒的多数だと思うので、今だからこそ観て欲しい。


それでは、実際の料理のレポートをお届けしよう。
日本人の口にも合う!「タシデレ」の料理と個性的なチベット酒
「タシデレ」で頂いた料理は以下のとおりだ。
- ラム・ギュマ:1,500円
- ビーフモモ:3P 800円 + 追加1P 250円
- シャパレ:2P 1,200円
- スンラブ・ングマ:1,100円
- トゥクパ:1,600円
- チベット酒3種呑みくらべセット:1,350円
- チベットラガー「タシデレ!」:ボトル 1,300円

まずはお店の名前を冠したチベットラガー「タシデレ!」をいただいた。こちらはツァンパを副原料に用いた唯一無二のオリジナルビールだ。ツァンパはチベットのソウルフードである大麦。苦味を楽しめ、酸味が爽快なラガービールで美味しい。

そのラガーにぴったりなのが、子羊と米の自家製腸詰め。香ばしくて食欲が一気に高まる!
表面はカリッと焼かれていて、お米のねっちり感と自然な甘味が活きている。肉は叩いた羊肉のようで、食感が豊か。羊の香りも上品に楽しませ、旨味がしっかりある腸詰めだ。

自家製の辛味調味料は、辛味だけでなくピリッと気持ち良い酸味があり美味しい。トマトと玉ねぎが使用されているので旨味もある。

モモは牛肉のみで、肉肉しい食感!粗挽きの存在感が個性的で、フレッシュセロリの爽やかな香りと牛肉の香りが調和している。
皮はもっちりしていて、食べごたえがある。ネパール料理店で一般的に出会うモモと異なる点も面白い。

心待ちにしていた「チベット酒呑みくらべセット」。料理ごとにペアリングする楽しさがあるので、お酒が苦手でなければ前半で頼み、感性と味覚の赴くままお料理に合わせてみることをオススメする。3種の内容は以下のとおりだ。
「お米」ベースのデ・チャン
マッコリに似たチベットのどぶろくで、上品な甘味と酸味、キュッとした苦味が特徴的。ちょっとしゅわっとするお酒だ。日本の一般的などぶろくよりも、軽やかな口当たりと味わいだ。
「乳清」ベースのチュルク・チャン
自家製乳清ベース。酸味と軽い苦味があり、スッキリした味わいのお酒だ。これはキリッとしていて、ウォッカと混ぜている模様。
「ヨーグルト」ベースのショ・チャン
自家製のヨーグルトを使用していて、甘味とラムの香りが魅力的なバランス!そして、ミルキーな香りが広がる。ミルキーと言っても全くクセが無く広がっていく点が上品だ。これは必飲!!

牛の挽肉を小麦粉の皮で包んで揚げたミートパイ。とにかくカリッカリで香ばしい。それでいて、噛みしめると生地のもっちり感もある。実に個性的な食感で、イチオシの一品だ。
ヨーグルトのお酒を合わせると、あたかもヨーグルトを少し掛けて食べたかのようなペアリングになる。

チベットの漬物と豚肉の炒めもの。上品な酸味とバラ肉の脂の甘味が素敵な相性で、素朴ながら美味しい。日本人好みの味ともいえるだろう。こちらは乳清のお酒と相性がバッチリ。

チベットで何度も食べたので個人的に思い入れがある料理だ。麺は手打ちで、なんとオーダー後に打っている模様(厨房から音が聞こえてきた)。今回はハーフサイズでお願いした。
手打ち麺は、もっそり、むっちりしていて、知っている人なら「これぞ!」とテンションが上がるし、知らなくとも新鮮な食感が楽しめるはず。味付けも良く、肉の香りが広がり、たっぷりの野菜炒めも香ばしい。
肉はラム肉で、ホロホロ。乾燥させた肉を戻して使っているような食感だ。野菜炒めにはニンニクも入っていてパンチがある。スープは野菜メインの出汁だろうか、スッキリしつつ旨い。
冒頭に書いたとおり、「タシデレ」ではチベット料理に加えてインド料理も提供されている。ただ、初めて訪問する方ならばチベット料理に絞ってオーダーしてみて欲しい。きっとネパール料理とも異なる味わいに驚きがあるはずだ。また、一度お伺いすれば、きっと他のお料理も試したくなって再訪することになるだろう。
タシデレ(TASHI DELEK)
住所:東京都新宿区四谷坂町12-18 四谷坂町永谷マンション 1F
電話番号:03-6457-7255
予約可否:予約可
営業時間:
平日 11:00〜15:00 / 17:00〜22:00(L.O. 21:30)
土・日・祝 11:00〜22:00(L.O. 21:30)
定休日:年末年始
公式サイト
https://tashidelek.jp/