こんにちは。筆者は「すしログ」という鮨専門サイトを運営しつつ、国内外の料理を食べ歩いて20年の「食の変態」大谷だ。食のために世界を放浪し、石毛直道先生を敬愛して文化人類学を専攻。食べ歩くだけではなく自ら料理することを是としている。
今回ご紹介する「新宿中村屋」は、日本を代表するインドカレー店の老舗であり、今やレトルト食品も展開しているため、知らない人はいないブランドだろう。
「新宿中村屋」のインドカレーは、インド人革命家によって生み出されたエピソードは有名だ。インド独立運動の際に「中村屋」に身を寄せたラス・ビハリ・ボース氏は、同店喫茶部にカレーのメニューを提案し、1927年(昭和2年)に「日本で初めてのインドカリー」が誕生した。
そんな「新宿中村屋」のカレーに、ヨーグルトが使われていることを知る人は決して多くないだろう。詳しくは後述するが、ヨーグルトを前面に出すカレーもあるほどだ。
ちなみに「日本最古のカレー店」は東銀座の「ナイルレストラン」が有名だが、こちらは正しくは「日本最古のカレー専門店」で、創業は1949年(昭和24年)である。創業年で見ると「新宿中村屋」の方が早く、日本で初めてインド式のカレーを提供したレストランとされている。
それでは、「新宿中村屋」の魅力を、お伝えしよう。
カレーにヨーグルトを入れるのは「新宿中村屋」が日本最古説?
「新宿中村屋」の功績は、日本人にスパイスと本格カレーの魅力を伝えたことだろう。インドカレーを売り出した当時「新宿中村屋」のインドカレーは従来のカレーの7~8倍の価格だったにも関わらず圧倒的な人気を博したそうなので、本格的なカレーへの貢献度は大きい。
今や日本のカレーは独自の進歩を遂げ、自由な発想のもとで表現の幅が広がり続けている。しかし、今回、筆者もは10年以上ぶりに「新宿中村屋」のカレーを食べて、今なお古びることなく美味しいことを実感した。幅広い世代にヒットする日本式スパイスカレーの王道なので、カレー好きならば必食の名作だと言える。
そして、「新宿中村屋」は「デザートではなく料理にヨーグルトを使ったお店」としては、日本最古なのではないかと思う。
過去に頂いた時には気づかなかったが、今回久々に頂いたところ、一口目から「これはヨーグルトの酸味か?」と感じたので伺ってみたところ、正解であった。自家製のヨーグルトを使用されていて、カリーに合うようにpH(酸性・アルカリ性を示す数値)を調整しているそうだ。「新宿中村屋」がカレーのためにヨーグルトを自家製しているなんて、初めて知った。
また、ヨーグルト以外に着目すべき点は、鶏肉のおいしさだ。それもそのはず、鶏肉は切り身ではなく丸鶏を使用しているからだ。一皿のカレーに様々な部位の鶏肉が使用されていて、鶏の旨味とゼラチン質もたっぷりと滲んでいる。日本人は骨なしを好むところ、頑なにポリシーを貫き通り、食べやすさよりも味を選択されている点が崇高である。
それでは、実際の料理のレポートをお届けしよう。
自家製ヨーグルトを使った【コールマンカリー】と看板メニューの【中村屋純印度式カリー】を食べくらべ
「新宿中村屋」で頂いた料理は以下のとおりだ。
- コールマンカリー:2,200円
- 中村屋純印度式カリー:1,980円
- 生ビール・マルエフ:825円
実は、今回の第一の目当ては、看板メニューの【中村屋純印度式カリー】ではなく、【コールマンカリー】であった。こちらはメニューにハッキリと「自家製ヨーグルトを使用」と謳っているので気になった次第である。
いざ頂いてみると、ヨーグルトの酸味にトマトの酸味も混ざり、じわりと酸味が広がる。そして、トマトの旨味や玉ねぎの旨味と調和。コクが強く、酸味が気持ち良いアクセントになる。
スパイスはクローブやブラックペッパーなどで刺激的。しかしながら辛味は強くなく、ピリ辛程度。日本人の多くが馴染みやすい味わいで、「日式のコルマ」を表現している。これを1929年(昭和4年)から提供しているというのだから驚く。
さらに、1927年(昭和2年)に登場した日本初のインドカレー【中村屋純印度式カリー】も頂くことに。キャッチコピーは「恋と革命の味」。インパクトのあるフレーズだが、これは冒頭のラス・ビハリ・ボース氏が「中村屋」の創業者である相馬夫妻の長女・俊子氏と結婚したためだ。
その味わいは、最初の一口目から、さらっとした酸味が漂い、強いコクと合わさり、誰もが「美味しい!」と感じるチキンカレーだ。
辛味は【コールマンカリー】よりも強いが、決して主張しすぎない。これはチキンブイヨンのコクやバターと思われるコクが活きているためだ。
スパイスは20種類ほど使用されているそうだが、上品に調和していて、カルダモンはふんわりと香る程度。穏やかながら確かな印象を残すカレーだ。ゴロッと入った骨付きチキンも嬉しく、ソテーしたジャガイモも名脇役である。
カレーの時間を豊かに彩る【6種類の薬味】と生ビール
また、「新宿中村屋」と言えば、忘れてはならない存在が【6種類の薬味】だ。
【6種の薬味】は、花らっきょう、アグレッツィ、オニオンチャツネ、マンゴーチャツネ、レモンチャツネ、粉チーズだ。
これらの薬味によって、カレーを自分の好みの味にカスタマイズできる点が嬉しい。「チャツネ」と表記されているが、マンゴーとレモンのアチャールがあるところが本格的だ。今や時代が追いついた感がある。
「新宿中村屋」はちょっと贅沢で、優雅な雰囲気が漂う老舗なので、休日のお昼はお酒を飲んでいる人も多い。ビールの銘柄はマルエフであった。マルエフはスーパードライよりも前の1986年に発売されたビールだ。昭和の新宿の文化の名残を感じさせる中村屋に合っているように感じた。
これぞ老舗。新宿の文化的な一面を感じられるレストラン
そして、雰囲気やサービスも流石であると感じた。新宿の一等地の自社ビルは貫禄があるが、店員さんのサービスもホテルさながらの質である。フレンドリーかつきめ細かく流石だと実感する。
店内は広々としていてなんと120席。ちょっぴり高級感があり、天井高も高いので圧迫感なし。「ほんのちょっと特別な大人のファミレス的なお店」と言った風情があり、数少ない新宿の文化的な一面を感じられる、数少ない老舗である。
また、メニューは大変豊富で、レストランがもとになっていることを実感させる。カレーと麻婆豆腐という、実に魅力的なセットメニューもある。
お店は予約できないため、ランチタイムの場合、早めの到着が望ましい。店内は広いので開店後にすぐ案内頂ける。待合席は比較的多く用意されていて、常連さんが多いためか殺伐としていない点は特筆に値する。実に穏やかな気持ちになれるお店だ。
新宿中村屋 manna(マンナ)
住所:東京都新宿区新宿3-26-13 新宿中村屋ビル B2F
電話番号:03-5362-7501
予約可否:予約不可
営業時間:11:00~22:00(L.O. 21:30)
定休日:元日
お店の公式サイト
https://www.nakamuraya.co.jp/manna/