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あの“化学の会社”が牧場から手がけるオーガニックA2ヨーグルトって?

ヨーグルト愛の人々 2024.06.11

あの“化学の会社”が牧場から手がけるオーガニックA2ヨーグルトって?

こんにちは、ヨーグルトマニアの向井智香(むかいちか)です。

突然ですが、「ピュアナチュール オーガニックヨーグルト」という商品をご存知でしょうか。

柔らかい艶を帯びた質感が美しく、不思議なお乳の甘い香りに包まれ、新種のチーズかと思うほどにずっしりとした旨みを秘めた濃厚なプレーンヨーグルト。

ピュアナチュール オーガニックヨーグルト

なんとこちらの商品を手がけられたのは、「カガクでネガイをカナエル会社」でお馴染みのカネカさん!

なぜ化学の会社がヨーグルトを?という驚きもさることながら、原料の95%以上を占める生乳はたった1軒の牧場で、オーガニックのA2ミルクという衝撃のスペック。

ここまで「乳」のブランディングに特化したニッチなヨーグルトが、ご当地モノでもなく、大手の乳業メーカーさんのコンセプト商品でもなく、カネカさんから…!?

マニア心をくすぐられまくり、牧場見学へお邪魔してきました。

酪農のまち、別海町へ

牧場があるのは北海道の東端部、別海町(べつかいちょう)。生乳生産量日本一を誇る町です。

令和5年のデータで人口は14,200人、乳牛は109,081頭。空港からの道中はひたすら牧草地や飼料畑。いよいよ本当にスケールの違うところに来たな、と感じさせられる移動時間でした。

そうしてたどり着いたのがこちら!

別海ウェルネスファーム

おやおや!「別海ウェルネスファーム」の看板の奥に「kaneka」の看板が!!?

なんとカネカさん、既存の牧場から生乳を仕入れているのではなく、牧場ごと作ってしまったそう。だから原料の生乳がたった1軒の牧場のもので、オーガニックやA2などの特徴を出せていたのですね。

実はカネカさんはベルギーのPur Natur社と共同で日本の有機酪農の拡大に取り組んでおられ、その最初の実践場がこの牧場。

各所にならではの技術がありました。

テクノロジーがあちこちに!有機循環型酪農を実践する別海ウェルネスファーム

まず牧場の目の前に広がっていたのがこちら。

太陽光発電

カネカさんの太陽光パネルです。

あまりイメージにないかもしれませんが、酪農は牛さんが快適に過ごすための扇風機やバーンクリーナー(排泄物を運び出す機械)、搾乳機やバルククーラー(搾ったお乳を冷蔵保存するタンク)など、多くの電力を要する産業です。

別海ウェルネスファームでは太陽光を活用し、環境にも優しく、昨今の電気代の値上げにも動じない酪農経営に取り組んでいらっしゃいます。

お次はこちら。

牛舎の屋根

牛舎の屋根にはカネカさんの断熱材が使用されています。さらにミストと扇風機を設置し、気化熱を利用して体温調整ができる仕組みになっています。牛さんは暑さが苦手な動物なので、別海といえども暑熱対策は必要なんですね。

自動搾乳機

そしてお乳を搾ってほしくなった牛さんは、自らこの赤い機械へ。レーザーで乳頭の位置を検知し、自動で搾乳してくれるハイテクなマシンです。個体もきちんと識別されており、搾乳時刻や量、異常の有無などがデータ化されていきます。

初めて自動搾乳機というものを知った時は、牛さんが自分から機械に入ってゆく光景が不思議でなりませんでした。お乳が張るので搾られて楽になりたいというモチベーションのほか、最後にご褒美のおやつが出てくるのもポイントのようです。

こうして居心地の良い牛舎を用意した結果、牛舎で過ごす子が多く、放牧地の草が伸びすぎてしまうのだと牧場の方も苦笑い。

そう、別海ウェルネスファームさんは放牧と牛舎の二刀流! 牛さんはいつでも自由に放牧地と行き来できるのです。

放牧地

てっきり牛さんはみな放牧を好むものだと思っていたのですが、物事はそう単純ではなく、ここに来る前に暮らしていた環境や性格、天候や放牧地の草の具合など、様々な条件で牛舎を選ぶ子も少なくないそう。

取材に応じてくださった別海ウェルネスファームの久多里さんは「牛にとって・人にとって・経済的に、なにが“正しい”のか、まだ明確な答えが出ていない。それゆえに柔軟に体制を変えながら、より良い方向を目指して歩み続けている」と話されていたのが印象的でした。

オーガニックの定義、そして話題のA2ミルクとは?

さて、そんな別海ウェルネスファームで搾られる生乳のすごいところは、オーガニック(有機JAS認証)かつA2ミルクであること!

まず、生乳が有機JAS認証を得るには、牛さんが食べる餌が有機JASの基準を満たしている必要があります。

餌の多くを海外からの輸入に頼らざるを得ない日本では厳しいものがありますが、そこは別海。広い土地を生かして、牧草とデントコーンを育てていらっしゃいます。

畑

そしてこの飼料畑を肥やすのが、牛さんの排泄物を微生物の力で発酵させた堆肥。

堆肥

まさに有機循環型酪農です。

こうした餌の規格の他、放牧地や牛舎の状態など細かな審査をクリアしたものだけが有機生乳を名乗れます。餌だけではなく、牛さんの暮らし全体が審査項目となっていたのですね。

そして今話題なのがA2ミルク。

『日経トレンディ』の2024年ヒット予測で第10位にランクインし、今年に入って新商品のリリースも目につくようになってきました。

“A2”は乳中のたんぱく質の型を表す言葉なのですが、ちょっと複雑です。まず牛乳の中には「ホエイ」と「カゼイン」の2種類のたんぱく質が存在します。この「カゼイン」の一種である「βカゼイン」には、「A1」と「A2」の二つの型が存在します。このどちらの型(または両方)を出すのかは、牛さんごとに遺伝子で決まっています。

一般的な牛乳ではこれらを分ける作業が行われていないので、両方の型が含まれています。ところが別海ウェルネスファームでは、遺伝子検査でA2の型のみを出すと判明した牛さんだけを集めて育てているため、搾られるお乳の「βカゼイン」は必ずA2です。

みんなA2の遺伝子検査済み
みんなA2の遺伝子検査済み

搾った後の加工ではなく、牛さんの遺伝子ですでに決まっているものなので、無数の牧場から集乳する量産品では実現の難しいスペックです。

ではなぜA2だけを選別するのか?

それはまだ研究段階のことが多く断言が難しいのですが、ヒトの母乳と近いことや、お腹がゴロゴロしづらいことなどが期待されています。

日本のヨーグルト文化の伸びしろに期待

2018年から乳事業に参入し、2021年には牧場を稼働させ、2023年にはこんなにハイスペックなヨーグルトを世に出されたカネカさん。

実は近年、このような他分野からの参入や、専門店などの形でヨーグルトを手がけられる企業さんが続々と登場しています。

中には既存品にはない柔軟なアイデアにハッとする商品も。

日本のヨーグルト文化はまだまだ浅く、伸びしろに満ち溢れているのだなぁと思わされます。

「みんなのヨーグルトアカデミー」では、このように現地調査を踏まえてヨーグルトの背景を深掘りする記事を書かせていただいております。

ご興味を持っていただけましたら、過去記事も併せてお楽しみいただけますと幸いです!

記事を書いた人

向井智香
向井智香

大手からご当地まで日本中のヨーグルトをレビューするヨーグルトマニア。各地の牧場や工場を巡って酪農・乳業を学び、講演会やワークショップなどを通してヨーグルトのファンづくりに励む。「ヨグネット」代表。

ヨーグルトの本(2022年/MdN)
https://books.mdn.co.jp/books/3221403035/
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