こんにちは、ヨーグルトマニアの向井智香(むかいちか)です。
今回は北海道・十勝エリアのご当地ヨーグルトをご紹介します。
この記事を書こうと思ったきっかけは、先日登壇させていただいた「明治北海道十勝ミルクきわだつヨーグルト」のリニューアルイベント。
なんとこの商品、全ての原料が“オール十勝素材”に生まれ変わったとのこと!
原点を遡ると、1992年に「明治北海道十勝」ブランドが誕生。
ヨーグルトに展開されたのは1995年のことでした。
「明治北海道十勝ヨーグルト」の商品名でデビューし、2021年には十勝の生乳から発見された乳酸菌「TM96」が使われるようになり、「明治北海道十勝ミルクきわだつヨーグルト」へ。
さらに今年10月のリニューアルでお砂糖が十勝の砂糖大根を原料とした甜菜糖に変わり、31年の時を経て“オール十勝素材”のヨーグルトが誕生したのでした。
このイベントには、十勝で一次産業に携わる方々からの応援メッセージが寄せられており、熱い地元愛を感じました。
さらに今回のリニューアルで導入された「脂肪微細化」も興味深いポイント。
乳中の脂肪球を従来より細かなサイズに砕くことで、ヨーグルトの質感や口溶け、脂質の感じやすさを向上させる加工技術です。
乳に何かを加えて飾り立てるのではなく、本来持っていた物からポテンシャルを引き出すことで、よりおいしく仕上げているところに、原料への想いの強さを感じました。
このヨーグルトをお召し上がりの際は、ぜひ固形のまま、練らずに口に含んでみてください。
ほやぁぁぁぁっとした口溶けとともに染み出す優しい甘み、それを追うように一気に広がるお乳の香り。
そして最後にほんのりと姿を現す柔らかい酸味。
とても立体的な味わいで、リーズナブルな4ポットのヨーグルトとは思えぬ贅沢さが味わえます。
こんな上質なヨーグルトが、日々の食卓に向けたカジュアルな商品として全国展開できているのが、大手メーカーさんの強みでもあり、食料自給率1,100%を誇る十勝ならではの強みでもあります。
さて、そんな十勝では、どのような酪農が行われているのでしょうか。
昨年3月にご当地ヨーグルトメーカーである株式会社風景さんからのご招待で、十勝の酪農現場を見学させていただいていたので、その時に見聞きしたこと、感じたことを綴ってみます。
過去記事(静岡県 デンマーク牧場 前編 / 後編)と読み比べていただくと、規模の違いや多様性をより楽しんでいただけるかと思います。
驚異の食料自給率1,100%!ご当地ヨーグルトも豊富な十勝
十勝は北海道の南東部に位置する19市町村の総称です。
北海道には「総合振興局・振興局」という独自の行政区分があり、このように複数の市町村が一つの区域として扱われています。
羽田空港から飛行機で向かうと、南北に走る日高山脈に世界を区切られたかのように広がる十勝平野の地理的特徴が、空から一望できるのが圧巻です。
この日高山脈が雨雲をせき止めることから晴天率が高く、冬に続く晴天は「十勝晴れ」と呼ばれています。
そんな十勝の食料自給率は驚異の1,100%。
畑作や酪農などの一次産業が非常に盛んで、おいしいご当地ヨーグルトも多数存在しています。
ハイテク化が進む、六次産業化ブランド「カントリーホーム風景」を訪問。
十勝の鹿追町で60年もの歴史を持つ牧場、農事組合法人 東瓜幕協和生産組合さんが六次産業化に取り組み生まれたブランド「カントリーホーム風景」。
牧場のすぐそばに三角屋根のカフェがあり、牛乳・ヨーグルト・ソフトクリームなどが楽しめます。
牧場はとても大きく、見学時(2022年3月)の飼養頭数は約660頭、うち搾乳が360頭ほど。
全ての牛さんが風景さん生まれで、ライフステージごとに牛舎が分かれています。
子牛・育成・初産・乾乳で牛舎を区切った牧場はよく見かけますが、風景さんの場合はさらに産後の月数でも区切っていらっしゃり、必要なエネルギーを過不足なく摂取できるよう、餌が設計されていることに驚きました。
飼料自給率も非常に高く、町内の平均が約40%のところ、風景さんは約60%。
「柵の向こうが牧草地ですよ」と案内いただきましたが、雪で覆われていてただただ銀世界。
「今日は全然寒くないですね」と言われ「そうですね〜」と話を合わせてしまいましたが、マイナス2度は東京都民にはとっても寒かった・・・!!!!
寝床は1頭ずつに区切られた、スペースを自由に選べる「フリーストール」という形式で、乳房炎を防ぐため石灰を撒いて清潔に保たれています。
地面は一見コンクリートのように見えますが、実はクッション性のある素材。
なかなか寝心地が良さそうです。
牛さんの首にはセンサーが装着されており、日々の活動状況がアプリに記録されていきます。
生まれた時に行う遺伝子検査の結果もアプリで管理されており、乳牛として有望な牛さんには優秀な種をつけるそう。
酪農の世界は想像より何倍もハイテクです。
余談ですが、風景さんの牧場にはわたしが名前をつけさせていただいたメラちゃんという牛さんがおり、この時に初めて対面できました。
初産を控えて広々とした牛舎で暮らしていました。
子牛の時はおてんば元気っ子な印象でしたが、大人になってシャイになったとか。
ターンテーブルで回る牛さん!搾乳施設ロータリーパーラー
そして何より圧巻だったのが大規模な牧場向けの搾乳施設、ロータリーパーラー!
風景さんでも2021年に導入されたばかりの、まだまだ珍しい設備です。
牛さんがターンテーブルに乗り、15分ほどかけてゆっくりと1周します。
人はその場で待機し、目の前に流れてきた乳頭を拭いてティートカップ(搾乳機械の乳頭にとりつけて乳をしぼる部分のこと)を装着するのみ。
風景さんでは、この時同時に汚れた体も洗ってあげていました。
どの個体のお乳を搾っているのかはセンサーで読み取って管理されており、搾乳量も記録されます。
搾り終えるとティートカップは自動で外れて洗浄されるので、人が関わるのは装着時のみ。
実際にわたしも体験させていただきましたが、屈む必要もなく目線の高さで作業ができるのでかなりスムーズです。
牛さんたちもパンパンに張ったお乳を早く搾ってほしくて自らターンテーブルに乗ってくれるので、効率の良い作業で搾乳ができるのはお互いのために大切なことです。
命の恵みに思わずジーンと・・・「牧場てづくりのむヨーグルト」の製造風景
こうして搾乳された生乳のほとんどは指定団体へ出荷されますが、その一部を牧場併設の小さな工房へ運び込み、手作業でオリジナルのヨーグルトに加工されます。
「牧場てづくりのむヨーグルト」という商品の製造風景を見学させていただいたのですが、思った以上に本当にてづくり。
殺菌、乳酸菌添加、発酵、攪拌まではタンクの中で行われるものの、最終的な攪拌具合の調整は人の手で行います。
ザルで濾してボトルに充填して打栓、ラベルを貼るのは全て手作業です。
特別に充填を体験させていただいたのですが、片手でこの量のヨーグルトを持って注ぐのは予想外に重く、慣れるまではプルプルしそうになるのを止めるのに神経を使います。
注ぎ始めると左手に持つボトルがじんわり暖かくなり、搾りたての牛さんのお乳を扱っているような気持ちになり、命の恵みにジーンと来てしまいました。
そう、発酵仕立てのヨーグルトは乳酸菌に適した温度帯にあるので、ちょうど体温のある牛さんから搾ったお乳の温度と近いんです。
このぬくもりのあるヨーグルトをボトルに充填したら、冷蔵庫で冷やして完成です。
ちなみに冷やす前の温かいヨーグルトは不思議と練乳のような甘さがあり、完成したヨーグルトとは少し違う味わいでした。
冷やしている間にも発酵が進むので、厳密には発酵の途中の味なんですね。
「でーでーぽっぽ」クリーム層のとろける食感と滲み出る香りに悶絶!
そんなこんなで見学を終えて、事務所でヨーグルトを食べさせていただいたのですが、ここでまた大感動!!
風景さんの、「草原のヨーグルト でーでーぽっぽ」はノンホモ(脂肪球を均一化していない状態)のまま発酵させるため、比重の小さい脂肪球が発酵中に自然に浮き上がり、クリーム層を形成します。
お取り寄せをすると輸送中の振動によってこの層が崩れたり蓋裏に貼り付いたりしてしまうのですが、現地で開封するとこうも美しいのか!と、思わず声が出てしまいました。
これが層だというのを伝えるための写真を撮りそびれたので、後日自宅で撮影したわかりやすい写真を貼っておきます。
このクリーム層のとろける食感と滲み出る香りは悶絶級。
ノンホモヨーグルトは大量生産には向かず、搾乳から加工場までの運搬距離が短い必要もあるため、ご当地ヨーグルトならではの姿です。
気になる商品名の「でーでーぽっぽ」は、代表の奥様が幼少期に聞いていた山鳩の鳴き声。
酪農家のご両親が朝早くから牧場に出かけて寂しい思いをしていた時に、おじいさまが山菜採りに連れて行ってくれた牧草畑で鳴いていたんだそう。
十勝の大きな牧場から生まれる少量生産のご当地ヨーグルトには、そんな暖かいストーリーが詰まっています。
全国からお取り寄せも可能ですので、機会があればぜひ試してみてください。
カントリーホーム風景
住所:北海道河東郡鹿追町東瓜幕西18線28-26
公式サイト
http://www.countryhomefukei.jp/
オンラインショップ
http://fukei.rj.shopserve.jp/