こんにちは、ヨーグルトマニアの向井智香(むかいちか)です。
前回の記事ではデンマーク牧場さんの歴史や理念をお話しましたが、今回はその続編。
デンマーク牧場さんならではのこだわりと、ヨーグルトの味わいの関連性についてお話したいと思います。
牧場が作るヨーグルト
一般的なヨーグルトは複数の牧場から集めた生乳を原料に作られるため、良くも悪くもお乳の味わいは平均化されています。
一方で牧場が六次化(※)して乳製品を製造している場合、その牧場の生乳だけでヨーグルトが作られるため、お乳の味わいに特徴が出せます。
ここが牧場のヨーグルトのおもしろいところ。
さらにデンマーク牧場さんのヨーグルトは、購入するタイミングによって味の違いが楽しめます。
その理由は2つ。
①搾乳頭数が少ないから
②放牧で青草を食べているから
詳しく見ていきましょう。
※農林漁業者が生産だけでなく、食品加工と販売にも取り組むことで、付加価値を高める取り組み。
①搾乳頭数が少ない
前回の記事でもお話したとおり、取材時に搾乳されていたのはわずか4頭。
内訳はホルスタイン(奥の白黒の牛たち)とジャージー(手前のベージュの牛たち)が2頭ずつでした。
ホルスタインは日本の乳牛の約99%を占めており、普段のヨーグルトで慣れ親しんでいるお乳の味です。
ジャージーは日本の乳牛のわずか0.7〜0.8%と言われており、ホルスタインに比べて脂肪分が高くリッチな味わいのお乳を出す貴重な品種です。
βカロテンが多く含まれ、お乳の色はほんのり黄色く見えます。
実はデンマーク牧場さんはジャージーをメインに飼育されている牧場で、搾乳牛が半々になるのはかなり珍しい状態。いずれホルスタインたちのお乳が出る時期が終われば、搾乳牛がジャージーだけの日も来るでしょう。
また、牛の個体差やその日のコンディション、搾乳が始まってからの期間の長さでもお乳の味わいは変わります。たくさんの牛の生乳がミックスされていれば平均化されますが、4頭であれば敏感な人には違いが感じ取れるかもしれません。
このように搾乳頭数が少ないと様々な条件の違いがダイレクトに製品に響いてくるので、同じヨーグルトでも購入日によってお乳の味わいが変わってくるのがおもしろいところ。
ちなみに搾乳牛たちも普段はお外で放牧されており、搾乳の時間になると職員さんに呼ばれて搾乳舎へやってきます。
到着したら自分の名札のあるスペースへ繋がれ、配合飼料が与えられます。
名札にはお誕生日も書かれているのですが、ジャスミンちゃんはなんと平成24年生まれ!今年で11歳です。
日本の乳牛はおおよそ5〜6歳で食肉として出荷されることが多いのですが、ジャスミンちゃんは11歳でも現役でお乳を出しています。
若いうちに出荷する理由には、乳房炎の防止や肉牛としての価値の担保など経済動物ゆえの様々な事情がありますが、「牛を飼うこと」が主目的なデンマーク牧場さんでは長く一緒にいることが優先されています。
こうしてスタンバイ完了した牛たちは、まず放牧で汚れた乳頭を濡れタオルできれいにしてもらい、さらにペーパータオルで乾拭きをしてもらいます。
次に手作業で前搾り。
生乳に異常がないかを目視で確認すると同時に、乳頭に溜まっていた生乳を捨て、状態の良い生乳だけを搾れるようにするための準備の作業です。
前搾りをしておくと、乳頭への刺激が引き金となって愛情ホルモンであるオキシトシンが分泌され、お乳が出やすい状態になります。
ここまで準備が整ったら、あとはミルカーの出番。
4つの乳頭に「ティートカップ」と呼ばれる装置を装着すると、自動で搾乳した生乳が「バケット」と呼ばれる銀色の缶の中へ溜まっていきます。
手前は搾乳待ちのガーナちゃん、奥はまもなく搾乳が終わるアナちゃん。
おっぱいの大きさの差に注目!
これは午後の搾乳時で、9kg前後のお乳が搾られています。
朝の搾乳では20kg以上のお乳が出るそうで、乳房はさらに大きくなります。
搾った生乳は1頭分ずつ重さを測り、別のバケットへ。
職員の柴田さんは軽々と片手で作業をされていましたが、バケット自体にも重さがあり、向井だと両手で掛け声付きで持ち上げられるレベル。
激しくリスペクトする瞬間でした。
搾乳を終えた牛さんは乳頭を消毒してもらい、もう一度配合飼料をもらってから放牧場へ戻っていきます。
搾乳の方法は牧場の規模によっていろんなパターンがあるので、今後の取材記事の中でもご紹介していきますね。
②放牧で青草を食べている
牛の主食は草。
この草の種類や与え方にも牧場ごとに様々な方法があります。
デンマーク牧場さんでは、地面に生える青草を自由に食むことができます。
好む草が違うとされる牛と羊が同じエリアで放牧されており、生えている草が食べ尽くされると隣の区画へ移動。また草が生えてきたら戻るを繰り返し、暖かい季節はいつでも青草がある状態です。
また、草が少なくなる季節に備えて広大な牧草地でイタリアンライグラスが育てられており、春から夏にかけて4回ほど刈り取って干し、保存性の高い乾草が作られます。
最初に刈り取られたものが1番刈り、次が2番刈り…という呼び方をされ、1番刈りが最も栄養価の高い乾草になります。
干し終えた乾草は倉庫に保管されます。
今は乾草を作る時期なので倉庫はほぼ空っぽ。
土地の狭い日本では乾草を輸入することも多いですが、デンマーク牧場さんは基本的に自家製の牧草で賄えるそう。
ちなみに牧草やとうもろこしを発酵させてお漬物のようにした「サイレージ」を作る牧場も多いのですが、デンマーク牧場さんは乾草のみ。
牧草は無農薬で育てられており、牛糞に近隣の工場から引き取った木屑を混ぜて発酵させた堆肥を撒いて土を肥やしています。雑草が生えるので管理が大変とのことですが、なるべく自然な状態にこだわっていらっしゃいます。
牧草以外に乳量や成分を高めるために与えられる「配合飼料(穀物などの飼料をミックスしたもの)」は、一般的な牧場より控えめにされているそう。
自然といえば、デンマーク牧場さんの牛たちはツノが生えたまま。
一般的には安全のため若いうちに焼き切ったり、除角クリームで生えなくしたりするのですが、牧場さんの理念によっては除角を行わないこともあるのです。
ちなみに耳についている黄色のタグは「耳標(じひょう)」といい、牛トレーサビリティ法で義務付けられたもの。鼻の輪っかは「鼻環(はなかん)」と呼ばれ、ここにロープを結んで使います。
牛舎で飼われている乳牛は鼻環をつけないことも多いのですが、放牧しているといざという時の捕獲が難しいので、つけていた方が安心とのこと。
治療時に、動かないようにおさえておくことにも役立ちます。
少々脱線してしまいました。
本題に戻りまして、デンマーク牧場さんの牛たちは、暖かい季節は青草をたくさん食べ、冬場は乾草を中心とした食生活になります。
放牧地に生える草もなるべく牧草地と同じ品種になるよう管理されているようですが、青草の状態と乾草の状態では、栄養価や消化吸収、嗜好性など様々な違いがあります。
食生活が違うとお乳の香りや色にも違いが出ます。
そもそも牛乳自体、季節による牛の食欲や飲水量の変化で味わいが変わるもの。
そこに食べ物の違いも加わると、季節の味の差は一層際立ちます。
「デンマーク牧場のヨーグルト」は生乳100%で成分調整も味付けもない、加工度の低いノンホモのプレーンヨーグルトなので、お乳の味を楽しむにはうってつけなのです。
自然のゆらぎを楽しむ
ご当地ヨーグルトの醍醐味、それは自然のゆらぎを楽しめること。
わたしも普段のマニア生活の中で「あれ?このヨーグルト、前に食べた時と印象が違う」と思うと、自分の過去の投稿を探し、「そっか、前は真冬にお取り寄せしてたのか」などと振り返って楽しむことがあります。
デンマーク牧場さんのヨーグルトであれば、濃く黄色く変われば「ホルスタインのガーナちゃんかアナちゃんが乾乳期に入ったのかな、それとも新たなジャージーさんの搾乳が始まったのかな」などと想いを馳せることになるでしょう。
自然のままにゆらぐヨーグルトの味わいは、季節の移ろいを感じさせてくれ、またヨーグルトが牛たちからのお裾分けであることを再認識させてくれます。
情緒あふれるご当地ヨーグルトの世界を楽しんでみませんか。
社会福祉法人 デンマーク牧場福祉会
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