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世界初の「インド系スパイス料理×燗酒」の酒場ではヨーグルトの酸味が唯一無二に重宝される|藪晋伍さん【わたしをささえるもの】

ヨーグルト愛の人々 2024.05.02

世界初の「インド系スパイス料理×燗酒」の酒場ではヨーグルトの酸味が唯一無二に重宝される|藪晋伍さん【わたしをささえるもの】

クリエイティブで感動的な料理を生みだすシェフや料理人には、必ず尊敬する人や忘れられない思い出など「ささえる存在」があります。それは、毎朝食べるヨーグルトのように当たり前にあるからこそ、あえてメディアで話さなかったことも多くありそうです。

連載「わたしをささえるもの」では、そんな「ささえる存在」に注目し、シェフや料理人の意外な一面や、人生観・仕事観に触れながら、食のプロならではのヨーグルトの意外な使い方や魅力を語ってもらいます。

連載第13回は、横浜市・伊勢佐木にある「Spice Drunker やぶや」のオーナーで店主の藪晋伍さんです。「おそらく世界初の業態です(笑)」と藪さんがいうようにインド料理をベースにしたスパイス料理に燗酒を合わせる珍しいコンセプトは、日本酒ファンの支持を集めるだけでなく新しい食体験を求める食通にまで広がっています。

そんな藪さんのささえるものは、やはり「スパイス料理と燗酒」。唯一無二のコンセプトの誕生物語だけでなく、コンセプトをささえる存在としてのヨーグルトについて話してもらいました。

ヨーグルトを使ったスパイス料理は「ここぞ!」のタイミングで使う

横浜・関内駅から歩いて5分ほど、全長1.2kmにもなる商店街「イセザキ・モール」から路地に入ると小さな料理店が並ぶ横丁めいた小道になります。その小道に建つビルの3階にスパイス料理に燗酒を合わせるコンセプトが人気の酒場「Spice Drunker やぶや」(以下、やぶや)はあります。

扉を開けた先でやさしい笑顔で迎えてくれるのは店主の藪晋伍さんです。店内の壁にかかったメニューを見ると、南インド料理をベースにしながら、ブリやホタルイカ、生シラス、柿、甘夏といった季節の食材を使った品々が並んでいます。このなかからアラカルトかおまかせコースが選べ、どちらでも料理には燗酒のペアリングが付いてきます。アテを肴に日本酒を飲む、そんな日本人に馴染みのある居心地のよい空間がやぶやの人気の秘密でもあります。

「基本的にはその日の献立を考えてからお酒を組み合わせていきます。コースであれば10品ほど、アラカルトでも4、5品は頼まれるなかで気を付けているのはお食事の流れです。そのなかで必ず1品は、ヨーグルトの酸味を活かしたメニューを入れています」

たとえばインドの屋台などで売られているダヒ・プリからインスパイアされた料理は、ヨーグルトの酸味が活かされた料理です。ダヒはヨーグルト、プリはパニプリという小麦粉でつくる球状の薄いスナックのことで、パニプリの中にポテトサラダを入れて、ヨーグルトと酸味の利いたタマリンドのソースをかけて食べます。

この料理をやぶやでは、タマリンドソースをかけずに料理として出し、独特の酸味のある美川酒造場「舞美人」の酒粕再発酵酒「MYVY(まいびー)」の燗酒に合わせると、口の中で甘酸が補われダヒ・プリが完成します。

「インド料理には、ヨーグルトを使った料理が多いのですが、ウチでは1品か2品くらいにとどめています。というのもヨーグルトの酸味は、それだけで強いフックになるので、合わせる燗酒も似てしまうんです。なので何度も使わず、最後の食事で出すビリヤニにつけるライタのように、後味をすっきりさせる目的など、『ここぞ!』というときに効果的に使うんです」

ヨーグルトを使ったスパイス料理は「ここぞ!」のタイミングで使う
ヨーグルトを使ったスパイス料理は「ここぞ!」のタイミングで使う
ヨーグルトを使ったスパイス料理は「ここぞ!」のタイミングで使う

プロボクサー時代の減量対策で出会ったスパイス料理

「スパイスドランカー」の店名には、元プロボクサーの藪さんらしいパンチドランカーの意味と、スパイス料理で酒を飲むという2つの意味があります。スパイス料理に藪さんが出会ったのはプロボクサー時代のこと。それまでテレビ局に勤めながら二足の草鞋の挑戦でしたが、2011年にプロデビューしたことをきっかけにボクサーに専念。生活のために始めたのがスリランカのアーユルヴェーダ(インドの予防医学)を取り入れた薬膳料理店でのアルバイトでした。

「これなら減量にもいいから一石二鳥だと思って始めたんです。スタッフのスリランカ人と仲良くなると家に呼ばれてカレーやスリランカ料理をつくってくれるんですよね。それまでまったくスパイス料理に興味がなかったんですが『何これ、なんかめっちゃ面白いじゃん』と、すぐに好きになったんです」

しかしスリランカ人のスタッフたちは、仲間の雇用を守るためもあってか日本人をキッチンに入れることはありませんでした。スパイス料理に興味をもってもレシピを知ることができなかった藪さんは、「それなら日本人が厨房にいる店で働こう」と考えます。そこで珍しく日本人でもキッチンで働ける東京・八重洲の「エリックサウス」にアルバイトで入ることになります。2013年のことです。

「当時のインド料理店は、厨房はインド人だけで、日本人は絶対にホールというお店が多く、本格的なインド料理店で日本人が厨房にいるなんて聞いたことなかったですよね。その点、エリックサウスは、厨房を含め日本人が働く店で、さらにいる人たちみんなインド料理マニア(笑)。一緒に働いていた時期には、魯珈(東京・大久保)の(齋藤)絵理さんや、当時の店長だった大岩食堂(東京・西荻窪)の大岩(俊介)さん、副店長だったマロロガバワン(東京・新井薬師前)の磯邊(和敬)さんが一緒でした」

現在の東京のスパイスカレーシーンを代表するメンバーが揃った店のなかでも、磯邊氏とは営業終わりに居酒屋に飲みに行って将来の夢を語りあったなかで、藪さんにとって「スパイス料理の師匠」でした。当時「居酒屋のようなスパイス料理の店をしたい」と語っていた磯邊氏の話が後の「やぶや」の誕生に大きく影響を与えているといいます。

「僕を料理人っていってくださるのは本当に嬉しいんですけど、おこがましいというか、料理上手ではないと自分では思っています。だってスパイス料理以外のものをつくれといわれても、そんな上手じゃない。ただただインド料理が好きなだけ。僕にはインド料理しかないんですよ。その自分の料理にいちばん合うもの、いちばん自然なものを模索した結果、後に出会う燗酒に決めたんです」

プロボクサー時代の減量対策で出会ったスパイス料理
プロボクサー時代の減量対策で出会ったスパイス料理
プロボクサー時代の減量対策で出会ったスパイス料理

自分にしかできないペアリングを模索していた時に出会った「燗酒の師匠」

2016年にボクサーを引退した藪さんの次の夢は必然、スパイス料理の居酒屋を出すことでした。和食居酒屋に入り料理修業をしながら、休日は埼玉・八潮のパキスタン料理店「カラチの空」のキッチンに入り、タンドール(土釜)料理を学ぶなど、再び夢に向かってまい進します。

「2018年に浅草で、5カ月ほど間借り営業をするようになって、コースでスパイス料理を出すことができました。カレーマニアの方々を中心に好評をいただいたのですが、お酒はまだビールやハイボール、ワインといったお客様のリクエストをただ出しているだけ。誰でもできることをやっていていいのかと考えるようになったんです」

やるならアルコールペアリングに挑戦したいと考えた藪さんは、高級店からカジュアル店、大衆店まで幅広く食べ歩きながらスパイス料理に合う酒を模索し続けます。

「まずはワインと思って勉強をしてみました。それこそ三ツ星のフレンチに行ってワインペアリングを体験してみても、何か自分のなかでバチっとこなかったんです」

モヤモヤとしてた思いを抱えていたなか、独立前に経営の勉強と思い入社した飲食会社に入ると日本酒バーに配属されます。そこで日本酒に詳しい多くの人が「絶対に行った方がいい」と勧めてくれたのが、当時、渋谷・神泉にあった「燗酒BAR Gats」でした。藪さんにとって「燗酒の師匠」である水原将氏との出会いです。

「マサさん(水原氏)の燗酒ペアリングを体験して、モヤモヤしてたことが全部吹っ切れて『もうこれじゃん』と思ったんです。料理の味を補完するようなペアリングだったり、料理と同じ味わいや香りをなぞるようなペアリングだったり、マサさんの燗酒ペアリングは、それをバチッとはめてくる。これこそペアリングだと衝撃を受けて、燗酒ペアリングにしようと、その場で決めました」

水原氏のペアリングでとくに印象的だったのは「馬刺しの生姜醤油」に、旭日酒造の「十旭日 山廃純米酒」と大塚酒造の「竹雀 吟吹雪」をブレンドした燗酒のペアリングです。生姜醤油に同調させたもので、トライアル山廃と竹雀はともに熟成によるメイラード反応がややあり、醤油の香ばしさがありました。この2つをブレンドすることで甘やかさや、カラメルのような香り、竹雀がもつ線の細さのようなものも感じられるようになり、艶っぽさがあったといい「あれはすごかった、今でも鮮明に覚えています」と、藪さんは振り返ります。

「日本酒は、そのままでは生米のようなもので、火を入れることで炊き立てのご飯のようにおいしくなるんです」という独特な考え方も、水原氏の考え方を受け継いだもの。加熱するちろり(燗酒をつけるカップ)の素材によって、火の入り方が変わるといいます。たとえば錫製なら熱で焼きつけるように火をいれるためフライパン、銅は細い酒質でも強くできるのが煮込み料理のようなので鍋に似ているといいます。他にも、チタン製のちろりやビーカーを酒質や用途で使い分けて燗づけしていきます。

「『水原流の正統な後継者だ』とご本人にいってもらえるくらい、マサさんのやり方を受け継いでやらせてもらっています」

自分にしかできないペアリングを模索していた時に出会った「燗酒の師匠」
自分にしかできないペアリングを模索していた時に出会った「燗酒の師匠」
自分にしかできないペアリングを模索していた時に出会った「燗酒の師匠」

日本酒にヨーグルトを加えた「ヨーグルトのブレンド燗」の可能性

身近なヨーグルトの活用方法を藪さんに聞くと、日清食品の「カップヌードル」のカレー味やシーフード味に、ヨーグルトの酸を合わせるアイディアを教えてくれました。さらに、カレー味なら香ばしさが出た熟成酒の燗酒を、シーフード味なら木の香りがある樽酒を燗酒にして合わせてみてほしいとペアリングのアイディアまで提案してくれました。

「ヨーグルトの酸味とコクは、塩味を遠ざけるような役割もあって、歳をとって食べにくくなった味のクッション材にもなってくれるんです。また、ペアリングをしてもらうとヨーグルトがカップヌードルと日本酒の味のつなぎ役をしていることに気づくはずです。ヨーグルトは、肉の臭みをとったり、やわらかくしたり、塩味を遠ざけたりするだけでなく、独特の酸味とコクがクッションになる。こんなマルチな食材はないですよね。インド料理でなくても、なくてはならない食材になるんではないでしょうか」

最後に今、気になっているヨーグルト使いを聞くと「日本酒とヨーグルトのブレンド燗」だと藪さんはいいます。たとえば、柑橘の風味のある日本酒の燗酒ならレモンケーキ、栗の風味がある日本酒ならモンブランというように、デザートの味わいを燗酒で表現できる可能性があることに気づいたそうです。

「まだまだ研究の余地がありますけどね」と笑顔を見せる藪さんですが、十分に手応えを感じているようで、取材後には、開発中のヨーグルトのブレンド燗を披露してくれました。どこかカクテルのような新感覚の燗酒で、日本酒はもちろん、ヨーグルトの活用としても新しい可能性を感じさせるものでした。やぶやの新たなペアリングアイテムとしてヨーグルト燗が登場するのも、そう遠くなさそうです。

日本酒にヨーグルトを加えた「ヨーグルトのブレンド燗」の可能性
日本酒にヨーグルトを加えた「ヨーグルトのブレンド燗」の可能性
日本酒にヨーグルトを加えた「ヨーグルトのブレンド燗」の可能性

話をしてくれた人

藪晋伍

藪晋伍

1986年、大阪府生まれ。在京テレビ局勤務をしながらプロボクサーを目指し、2012年にプロデビュー。プロデビュー以降は、ボクシングに専念し、東京「エリックサウス 八重洲店」など飲食店でのアルバイトで生計を支えた。2013年度の東日本スーパーライト級新人王、通算4勝2分け6敗。2016年に引退。引退後は、日本料理店や東京・八潮「カラチの空」で経験を積んだ後、2018年に5カ月間、浅草で間借り営業店「Spice Drunker やぶや」をオープン、食べログのカレー百名店にも選ばれた。その後は、経営の勉強のため外食企業に入社。日本酒バーに勤務するなかで日本酒に出会った。2021年1月に間借り時代の店名を復活させた「Spice Drunker やぶや」を横浜市・伊勢佐木に開き独立した。

Spice Drunker やぶや

住所:神奈川県横浜市中区伊勢佐木1-3-7 沼田ビル 3F
お店の公式SNS
X(旧Twitter)
@SpiceDrunker
Instagram
@spicedrunker

フォトグラファー

大城為喜

滋賀県甲賀市出身。ポートレート、ライフスタイル系メディアなどを中心に活動。

Webサイト
https://www.oshirotameki.com/

記事を書いた人

江六前一郎
江六前一郎

千葉県八千代市生まれ。食の編集者。2012年から7年間、食の専門誌『料理王国』の編集部に在籍し、のべ400店以上の飲食店を取材した。副編集長も経験。2020年からフリーに。雑誌・web、地方自治体や企業のオウンドメディアの企画・編集・執筆を通して、レストラン体験の素晴らしさやシェフの個性や独創性を広く伝えることを目指す。

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