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飲んで爽やか、食べればクリーミー!モロッコの「ラバン」はクスクスにマストな発酵乳|岡根谷実里の世界ヨーグルト

ヨーグルトラボ 投稿日:2025.06.20

飲んで爽やか、食べればクリーミー!モロッコの「ラバン」はクスクスにマストな発酵乳|岡根谷実里の世界ヨーグルト

前回は、モロッコのもっちりヨーグルト「ライブ」を紹介した。しかしモロッコのヨーグルトはライブだけではなかった。今回は料理に使う「ラバン」の話をしたい。

モロッコの発酵乳「ラバン」とは?

ラバンは、脱脂乳から作る発酵乳の一種だ。伝統的な製法は、バターを作ったあとに残る水分(バターミルク)を発酵させたもので、味わいは製法はヨーグルトよりもバターミルクだが、さらりとした酸味強めのヨーグルトを想像していただけたら大体あっている。

紙パックやプラ袋に入った市販品もあるが、道端で買うフレッシュなものには敵わない。

一緒に出かけた母さんが「8袋ちょうだい」と頼むと、店のお兄さんがビニール袋に詰めてくれる。

その間にコップで渡してもらったラバンを飲むと、豊かな乳風味と爽やかな酸味に、歩き回った疲れがすっと引いていくようだ。

道端の「お店」では牛乳とラバンが買える。酪農家が自ら運んできて売っているそうで、買って帰る人の他に、その場で買ってパンのお供に飲む人(左)も。
道端の「お店」では牛乳とラバンが買える。酪農家が自ら運んできて売っているそうで、買って帰る人の他に、その場で買ってパンのお供に飲む人(左)も。

モロッコの母さんに教わったクスクスの作り方

アラブ圏でも独特な食文化を持つモロッコの有名な料理の一つが、「世界最小のパスタ」と言われるクスクスだ。家族が集う金曜日に多くの家で食されるという。

胡麻のように小さなクリーム色の粒々を蒸して大皿に広げ、野菜や肉を煮込んだスープをかけて食べる。

粒が小さいから雑穀の一種だと信じていたので、実は小麦粉から作られる「パスタ」だと知った時は本当に驚いた。

一から手作りのクスクス。何度もぐるぐる混ぜて均一な大きさに仕上げていく
一から手作りのクスクス。何度もぐるぐる混ぜて均一な大きさに仕上げていく

「クスクスの粒は、昔は家で手作りするものだった。手間がかかるから、今はパッケージ入りの乾燥品を買ってくる人がほとんどだけど、手作りは格別においしいんだよ」。

母さんは、そう言ってクスクスの作り方を見せてくれた。

陶器のこね鉢に小麦のふすまを広げて水で湿らせ、そこに小麦粉をまぶして少しずつ塊を大きくしていく。目の粗いざると、細かいざるを通して粒の大きさをそろえ、オリーブオイルと水をまぶして二段重ねの鍋で蒸すと、ふんわりぱらぱらなクスクスができあがる。

下段のスープの蒸気で上段のクスクスが蒸される。熱効率が良い
下段のスープの蒸気で上段のクスクスが蒸される。熱効率が良い

二段重ねの下の鍋では、十種類近くの野菜がスパイスとともに煮込まれていて、食欲を刺激するいい匂いがしてくる。皿にクスクスを広げ、スープをかけたら完成だ。ここで登場するのがラバンである。

母さんは食卓に運び、「クスクスにはラバンが欠かせないよ」といって、白い液体を一人一人のグラスに注ぎ始めた。見計らったようなタイミングで息子たちがやってきて、一斉に食べ始める。

大皿のクスクス。アラブ・イスラム圏では、食べ物を分かちあうことを大事にし、一つの皿から直接食べる
大皿のクスクス。アラブ・イスラム圏では、食べ物を分かちあうことを大事にし、一つの皿から直接食べる

クスクスと一緒に飲むラバン、食べるラバン

母さんはクスクスを右手で集め、ボールのように握ってきれいに口に放り込む。息子たちはスプーンですくって口に運ぶ。一つの大皿を囲んで、思い思いの食べ方で食べ進んでいく。

クスクスの粒は小麦の香りが高く、さらに野菜のうまみが出たスープが絡んで手が止まらない。私は手で握ろうとする端からぼろぼろとこぼしつつ、夢中で食べ続けた。

横を見ると、家族は時々ラバンのグラスを口に運びながら食べている。クスクスにかけられたスープはスパイスと塩気が効いて、食べ続けるとややヘビーな感もある。それが、ラバンの爽やかな酸味でリセットされると、再び食べ続けられてしまう。

鍋の薬味のようなものだろうか。ラバンは脇役のように見えて、料理を引き立てる大事な役割を担っていた。

=このポロポロの粒を上手に丸くまとめて食べる技術に驚く
このポロポロの粒を上手に丸くまとめて食べる技術に驚く

さらに、ラバンは飲むだけではなかった。息子たちが満足して手を引き始めた頃、母さんがラバンのグラスを傾けて、大皿のクスクスにかけたのだ。

全体にかけるのではなく、自分に一番近い部分にだけ。そうして手でまぜて、ボールを作って口に放り込む。

なんということだ。私はねこまんまは行儀が悪いと言われ、ラーメンに牛乳を入れるのは言語道断と躾けられて育った。だからクスクスにラバンをかける光景は動揺してしまう。

しかし母さんは「口の中で混ぜるよりかけた方が断然おいしいんだよ」と悠然と笑う。

震える手で真似すると、味変の妙に驚いた。スパイスの効いたスープが、爽やかでクリーミーな味わいに大変身。クスクスの食卓にラバンが欠かせないのは、そういうことだったのか。ラバン、ますますすごい。

ミルク粥とラバンの意外な好相性

ラバンをかけるのは、クスクスだけではなかった。ある日の夕飯は米のミルク粥。昼がメインの食事なので、夜はたいてい軽め。生米を牛乳で煮て、塩とオリーブオイルを少々加えて、皿に平らに広げて食卓に運ぶ。

この日もラバンのグラスが渡された。スプーンとグラスを交互に口にぶと、この相性も悪くないと感じる。

すると、母さんは不思議な行動に出た。遠慮がちにミルク粥をすくってラバンのグラスに入れ、もうふたすくいくらい入れ、スプーンでまぜて食べたのだ。

え?と思って見つめていたら、一口食べさせてくれた。味は想像できたつもりだったが、これが想定以上に一体感が増していてクリーミー。

「これおいしいじゃん!!」と思わず声をあげたら、母さんは「でしょ?」とにっこり笑い、今度は遠慮なく堂々と、私のグラスにミルク粥を入れるよう勧めてきた。ラバンに包まれると、こうも料理の味が変わるものか。

白い米を白いミルクで煮て、白いラバンをあわせる。お腹の中が白くなりそう
白い米を白いミルクで煮て、白いラバンをあわせる。お腹の中が白くなりそう

モロッコのねこまんま⁉ 発酵乳の「サイコック」

私がラバンの味変に夢中になっているのを見て、家族がさらにラバン料理を教えてくれた。

「料理っていうほどでもないんだけどね... 蒸しただけのクスクスにラバンをかけるの。サイコックっていうんだけど、簡単だから、蒸したクスクスの残りがある時や、一人きりの夕食に作るんだよ」

まるでねこまんまだ。ラバンは体温を下げる作用もあるというから、夏は40度近くにまで気温が上がるモロッコの食卓で活躍するのもわかる気がする。ラバンの役目は、「味変」だけではないのだろう。

穀物と発酵乳は意外と好相性?

ご飯に発酵乳をかけるなど、考えたことがなかった。ご飯のおかずはしょっぱいものだし、穀物と発酵乳の組み合わせは、タブーの世界だと思っていた。

しかしクスクスとラバン、ご飯とラバンの組み合わせは、味の変化があって意外にも好相性だった。インドのカードライスも、食事の締めのクールダウンに最適だったので、近頃はありな組み合わせだなと思えるようになってきた。

ヨーグルト食の世界は、想像もしない食べ方の世界があって気が抜けない。次はどんな食べ方に出会えるのか、楽しみだ。

記事を書いた人

岡根谷実里
岡根谷実里

世界の台所探検家。東京大学大学院工学系研究科修士修了後、クックパッド株式会社に勤務し、独立。世界各地の家庭の台所を訪れて一緒に料理をし、料理を通して見える暮らしや社会の様子を発信している。講演・執筆・研究のほか、全国の小中高校への出張授業も実施。近著に「世界の食卓から社会が見える(大和書房)」。

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@m_okaneya
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