牛乳にヨーグルトを少量加え、マシンに入れてボタンをぽちっと押すだけで、驚くほど手軽にヨーグルトができるヨーグルトメーカー。
この仕組みは至ってシンプルだ。ひと言でいうと、一定の温度を保つことができるタイマー付きの容器。これがけっこう売れていて、Amazonや楽天市場を見てみると、口コミの数が7,700を超す商品も存在する。
コメントを見ると、昨今の物価高の影響からか、牛乳から作った方が安いとか、比較的高価格な機能性ヨーグルトをヨーグルトメーカーで増やしている、という内容は多い。
その一方で、気になるのが“味”である。安く作ることができても、好みの味でなければ続かない。では、どうすればヨーグルトメーカーで自分好みのヨーグルトができるのだろう。味と経済性を両立できるなら、いい買いものになるはずだ。
目次
- ヨーグルトの風味は[牛乳]×[種菌]×[発酵時間]×[温度]の数だけある
- 牛乳なら何でもいいわけではない!? 自家製ヨーグルトに適した牛乳とは
- ヨーグルトを固める視点で牛乳を見てみると、殺菌温度が重要だ
- 42度で6時間発酵。4つの牛乳×ブルガリアヨーグルトで風味の違いを比べてみた。
- [ふつうの牛乳]ブルガリアヨーグルトの再現性高し!酸味はしっかり、舌触り滑らか
- [ノンホモ牛乳]固まりが弱いが、ふくよかでやさしい味わい。ヨーグルトの原型に出会ったような感動
- [低温殺菌牛乳]想像以上にさっぱり[低脂肪乳]まろやかでクリーミー。滑らかさも十分
- [結論]牛乳を変えれば、自家製ヨーグルトの風味も変わる。
- 自家製ヨーグルト作りの留意点
ヨーグルトの風味は[牛乳]×[種菌]×[発酵時間]×[温度]の数だけある
そもそもヨーグルトは牛乳を発酵させたものだ。つまり、平たくいえば、[牛乳]×[種菌]×[発酵時間]×[温度]の組み合わせによって風味が決まる。
この4つの要素のなかで、唯一の“主原料”といえるのが牛乳である。そこで素人が思いつくのは、牛乳を変えればヨーグルトの風味も変わるのではないか?ということ。
ふだんスーパーで見る飲用乳にも、いわゆるふつうの牛乳をはじめ、低温殺菌牛乳、低脂肪乳など、さまざまなものがあり、それぞれ風味も異なる。そこで基本的な味の違いを把握しながら、作り比べてみることにした。
初めてのヨーグルトメーカー、どう選ぶ?
まずはヨーグルトメーカーのチョイスだが、大きく分けると牛乳パックのまま作れるものと、専用容器に牛乳を移してつくる2タイプがある。概ね牛乳パック型のほうが廉価で、専用容器型は多機能なものが多い。
前者は容器に移さずに作れるという点で手軽かつ衛生的であるため、今回は牛乳パックタイプに絞り、EC大手各社と比較サイト(Amazon、楽天市場、my-best、価格.com)の販売台数ランキングを参考に検討し、アイリスオーヤマの最新機種であるKYM-015を使用した。
参考までに、現行商品で最も売れているKYM-013との違いは、付属品の数だ。今回は短期間で数種類のヨーグルト作って比較するため、付属品が充実しているモデルを選んだ。
牛乳なら何でもいいわけではない!? 自家製ヨーグルトに適した牛乳とは
先ほど言及したとおり、自家製ヨーグルトづくりは、[牛乳]×[種菌]×[発酵時間]×[温度]の組み合わせによって風味が決まる。その主原料は牛乳だ。牛乳が異なれば、きっと味は変わるはず…! そんな仮説をもとに、タイプの異なる4種類の牛乳を用意した。
①ふつうの牛乳(日本の約9割の牛乳を占める超高温殺菌牛乳)
②ノンホモ牛乳(低温殺菌で静置すると上部にクリーム層ができる牛乳)
③低温殺菌牛乳(別名パスチャライズ牛乳)
④低脂肪乳(脂肪の量を減らした牛乳)
しかし、買ったばかりのヨーグルトメーカーの取扱説明書を見て、夢は早々に砕かれた。なぜなら、「使用する牛乳は、種類別の欄に『牛乳』と記載してあるものを使用してください。低温殺菌牛乳・乳飲料・加工乳などはヨーグルト作りに適していません」とある。つまり、②と③と④は向いていない、ということだ。
なぜ、低温殺菌牛乳、乳飲料、加工乳は適していないのだろう? 調べてみると、これらでヨーグルトを作ると、固まりにくいようである。それはなぜなのか。
ヨーグルトを固める視点で牛乳を見てみると、殺菌温度が重要だ
そもそも、ヨーグルトは牛乳に種菌(乳酸菌等または乳酸菌等が含まれるヨーグルト)を加えることで、牛乳に含まれる乳糖(糖質の一種)が乳酸に変化し、乳酸が牛乳に含まれるカゼイン(タンパク質の一種)を凝固させることで作られる。
そんなヨーグルトを「しっかり固める視点」でみてみると、生乳の殺菌温度が大きく関係しているようだ。少しだけ専門的な話になるが、ここは今後の自家製ヨーグルトづくりの一助となるのでぜひ続けて読んでほしい。
まず、前出の「ふつうの牛乳(日本の約9割の牛乳を占める超高温殺菌牛乳)」とは、生乳を120~150℃の超高温で2~3秒間加熱殺菌したものだ。実に日本で流通している約9割がこの方法で、どのスーパーやコンビニでも買える定番でもある。
(参考:牛乳の殺菌方法と栄養素の変化/一般社団法人Jミルク)
超高温で殺菌すると、生乳中の耐熱性胞子形成菌は死滅し、牛乳の成分のひとつであるたんぱく質が加熱変性を起こすとともに、牛乳に含まれる乳糖がむきだしの状態となる。よく「牛乳独特の乳くささ」といわれるものは、この殺菌方法により生まれるとされるが、実は自家製ヨーグルトをつくる場合、この状態のほうが固まりやすくなるらしい。
(資料※1~3参照)
ちなみに脱脂粉乳も、製造工程で高熱処理が加えられていることから、ヨーグルトにすると固まりやすい。参考までに、市販の多くのヨーグルトの原材料は「生乳・乳製品」となっているが、この「乳製品」とは脱脂粉乳であることが多い。
一方、脱脂粉乳を加えていないヨーグルトは「生乳100%」と謳われているが、これらはとろりと滑らかな食感をしている。例えば、「小岩井 生乳100%ヨーグルト」がそうだ。視点を変えれば、脱脂粉乳を加えずに作る一般的な自家製ヨーグルトは、市販の一般的なヨーグルトよりとろりと滑らかになるともいえる。
また、②ノンホモ牛乳(低温殺菌で静置すると上部にクリーム層ができる牛乳)は、生乳中の脂肪球を均一化しておらず(ノンホモゲナイズ)、脂肪は水分に対して比重が軽いため、上部にクリーム層が浮いて分離する。すると、ヨーグルトにしたときも同様に脂肪が分離してしまい、ダマになったりしやすい。
さらにこうした牛乳は、生乳本来の風味をいかす目的で低温殺菌をしていることがほとんどだが、高温殺菌とは異なり、牛乳に含まれるたんぱく質が変成していないため、そのままヨーグルトをつくると固まりにくくなる。
(参考:ヨーグルトを手作りする時、低温殺菌牛乳だとうまく仕上がらないことがあるのはどうしてですか?/一般社団法人日本乳業協会)
こうしたことから、ヨーグルトメーカーのメーカーが考える自家製ヨーグルトは、「固まってこそ成功」と考えているともいえる。逆に、それほど固まらなくてもヨーグルトの風味が得られればよいならば、どの牛乳を使ってもいいともいえる。今回は、好みの味を探す試みなので、あえて低温殺菌牛乳や低脂肪も使ってみることにした。
[参考資料]