こんにちは。筆者は「すしログ」という鮨専門サイトを運営しつつ、国内外の料理を食べ歩いて20年の「食の変態」大谷だ。
食のために世界を放浪し、石毛直道先生を敬愛して文化人類学を専攻。食べ歩くだけではなく自ら料理することを是としている。
今回ご紹介する「だあしゑんか(ダーシェンカ)」は、四谷三丁目にあるチェコ料理のレストランである。
チェコ料理と聞いて具体的なイメージが浮かぶ日本人は極めて少ないだろう。なにせ日本でチェコ料理を供するレストランは、わずか数軒とのことである。
中でも「だあしゑんか」は2023年で15周年を迎える年季の入った人気店だ。
なお、チェコ料理なのに平仮名の旧字体で「だあしゑんか」!?と不思議に思う人も多いだろう。
これはチェコを代表する文学者カレル・チャペックに由来する。
カレル・チャペックが飼っていた愛犬の名前が「ダーシェンカ」で、同名の作品も上梓している。そして、日本では1933年に初版が刊行され、当時の書名が「だあしゑんか」であったために店名にされたようだ。
この度、筆者が「だあしゑんか(ダーシェンカ)」を訪問した理由は春~夏季限定のヨーグルトスープである。
これはビーツを用い、ピンク色に仕上げた「リトアニア風冷製ボルシチ」だ。
大変珍しいので楽しみにお伺いしたところ、訪問して良かった!と実感した。
それでは、「だあしゑんか(ダーシェンカ)」の魅力を、お伝えしよう。
ビール好きにはたまらない!チェコ料理の特徴とは?
まずは、チェコ料理の特徴を挙げてみたい。下記は一般的に知られる客観的な情報だ。
- チェコは海がない国なので肉料理が主体
- 肉は牛肉、豚肉、鶏肉だけでなく、鴨、あひる、ウサギ、シカ、イノシシ、キジ、ウズラなど幅広く食される
- 西隣のドイツ料理の影響が強い
- 味付けについては、スパイスは多用せず、素朴な味付けが主流
- ヨーグルト以外にスメタナ(サワークリーム)が使用されることが多い
- 一人当たりのビール消費量は29年連続で世界1位
「だあしゑんか」で実際に頂いてみて、確かに!と実感することが多かった。
まず、肉については正に上記のとおりで、牛肉、豚肉、馬肉、ラム肉など幅広い種類を使用されている。
しかし、そうかな?と疑問に感じる点もあった。
それは「味付けについては、スパイスは多用せず」の箇所だ。
ハーブ類は積極的に使用されていて、辛味も付けられていたので・・・。
しかも、辛味の付け方が面白く、唐辛子よりもパプリカが持つ微量の辛味成分でピリ辛に仕上げている点が興味深い。
これはハンガリー料理に通じるパプリカの使い方だと感じた。
料理は全般的に日本人でもおいしいと感じるものばかりだ。特にビールが好きな人ならば琴線に触れるだろう。
肉類にしてもジャガイモ料理にしてもビールとの相性が良く、少し強めの塩気もビールのアテに申し分ない。そして、料理にはビネガーの酸味を多用されているので、肉類を頂いても爽やかに楽しめるところが特徴だ。
さらに、「だあしゑんか」では近隣地域の料理も採り入れているところが面白い。
ドイツはもちろん、ポーランドやオーストリア、クロアチアなど、意外性のある国の料理も楽しめる。そして、ドイツ料理以外にチェコ料理が影響を受けていると感じるロシア料理も散見される。
全体的に素朴でありながら味わい深い個性派料理ぞろいなので、リピーターが多く、長年愛されている理由に納得した。
それでは、実際の料理のレポートをお届けしよう。
爽やかな酸味が目立つ「だあしゑんか(ダーシェンカ)」のお料理を紹介!
「だあしゑんか」で頂いた料理は下記のとおりだ。
この度いただいたもの
- トラチェンカと季節のスープ、前菜盛り合わせ:1人分1,500円、2人分2,000円
- リトアニア風冷製ボルシチ:700円
- ウトペネツ:700円
- ブランボラーク:780円
- チュバプチチ:680円
- ビール煮込みのグラーシュ:レギュラーサイズ1,540円、ハーフサイズ950円
- ピルスナー・ウルケル:300ml 950円、500ml 1,420円
「トラチェンカ」とは「チェコ風テリーヌ」だ。
他の前菜は、チェコ人が愛食するという「カマンベールチーズのマリネ」「チェコ風ポテトサラダ」「ザワークラウト」で構成されている。
「ザワークラウト」はもちろんのこと、酸味が効いているものばかりなのが面白い。「チェコ風ポテトサラダ」も酸味がしっかりしていて、大ぶりのダイスカットが魅力的だ。
「トラチェンカ」はモツを用いたテリーヌで、モツの食感がリズミカル。そして、ふり掛けられたビネガーが爽快感を加える。
「カマンベールチーズのマリネ」はニンニクがしっかりと効いている!それ故にビールと抜群に合う。このように、地酒と料理の相性を実感すると、その国の食文化を体感できるものだ。
そして、お目当ての「リトアニア風冷製ボルシチ」は想像以上に美しいピンク色だ。
そして、味わいも裏切らず、ヨーグルトの酸味とビーツの甘味の独特な調和!
スープの中にはダイスカットした玉ねぎとキュウリが入っていて、各々のシャキシャキ感と香りが爽快。
ハーブはディルとパセリ。スッキリ爽やかなスープで、これは「これは飲むサラダだ」と感じた。
また、和食の「甘酸っぱさ」とは異なる甘酸っぱさが実に面白い。
「リトアニア風冷製ボルシチ」は「春~夏季限定」であるが、伺ってみたところ大体9月までは提供されているそうだ。
ヴァイスブルスト(白ソーセージ)を、野菜やスパイスと共にビネガーでピクルスにしたチェコ料理だ。
料理名にはジョークが込められていて、日本人ならばあっと驚くネーミングである。
オーダーされた際に、是非とも料理名の和約を尋ねてみてほしい(筆者はフロアスタッフの女性から教えて頂いた)。
味わいとしては、お酢の酸味とパプリカの香りが染み込んだ実に爽やかなソーセージである。
ソーセージの真ん中にピクルスと唐辛子が挟まれている。唐辛子は辛くなくピリ辛レベル。他に無い味わいのソーセージ料理で、脂っぽさが無く、サッパリと楽しめる。
チェコを代表する料理で、「チェコ風じゃがいものパンケーキ」だ。
頂いてみると、予想外にもっちもちな食感。そして、表面はカリッカリ。もっちり、カリカリは日本人もみんな嬉しい食感ではないだろうか?
ニンニクがしっかりと効いていて、バシッと香る。ハーブはマジョラムを使用。ジャガイモは完全なペースト状にされておらず、薄切り状の食感がある点も良い。
ジャガイモ料理はテクスチャーの点で調理センスが表れる。これは素朴ながらハマる美味しさだ。
マスタードが効いた自家製タルタルソースも相性が良い。
これは他国の料理で「クロアチア風ミニハンバーグ」とのことだ。
調理法が独特で、「スパイシーに味付けしたひき肉を、炭酸水でこねてオーブン焼き」にした料理だそうだ。
頂いてみると、むっちり、もぎゅっとした食感が魅力的だ。実に肉肉しい。そして、肉の旨味と香りが広がり、味付けにほのかな甘味がある。
付け合わせの「アイヴァル」こと、ローストパプリカソースも魅力的で、パプリカの香りが良く、自然な甘味と酸味がハンバーグにピッタリだ。
飴色に炒めた玉ねぎ、チェコらしく生ビール、そしてパプリカパウダー、キャラウェイシード、マジョラムなどでじっくり煮込んだビーフシチュー。
ハンガリーの牛肉とパプリカのシチュー「グヤーシュ」をチェコでアレンジしたのが「グラーシュ」とのことだ。
「だあしゑんか」のものは非常に濃厚で、これは日本人の誰もが「美味しい!」と感じる味わいだろう。
旨味が強い。そして、強いコクに酸味が混ざり、ジワジワと辛味が立つ。これは日本の洋食のシチューやハヤシライスとは異なる魅力がある。
チェコで定番の付け合わせの「クネドリーキ」は、発酵させたパン生地を塩茹でして作る独特のパンだ。
甘味があり、もっちり、ねっちりした食感が個性的だ。「加水率の高い蒸しパン」のようなパンである。
「グラーシュ」との相性は言うまでも無く最高だ。日本人が馴染みのお米と頂くよりも美味しいだろう。これこそが文化の力。
料理の紹介は以上だが、お店の名物の一つ、ビールについても紹介する。
生ビールの銘柄は、言わずと知れた「ピルスナー・ウルケル」だ。
チェコを代表するビールの傑作。「だあしゑんか」では、ビールに負荷を掛けないよう空冷樽生の状態で入れている。
どの料理にも抜群に合い、気付けば杯を重ねているはずだ。
なお、泡が多いように感じるかもしれないが、これはチェコ固有の注ぎ方で「ハラディンカ」と言う。泡を美味しく楽しむのが、チェコのスタイルとのことだ。
人気店なので、事前の予約は必須だと思われる。ヨーグルト好きならば、春~夏季に「リトアニア風冷製ボルシチ」を是非とも試して欲しい。
だあしゑんか
住所:東京都新宿区舟町5-25 TSI舟町ビルB1F
電話番号:03-5269-6151
予約可否:予約可
営業時間:月・木~金18:00~24:00、土・日・祝17:00~23:00
定休日:火曜
お店の公式サイト
https://dasenka.business.site/