こんにちは、ヨーグルトマニアの向井智香(むかいちか)です。
自己紹介の記事(前編/後編)から少々時間が空いてしまいましたが、いよいよ本格始動。全国のご当地ヨーグルト処を巡り、その背景に広がる酪農や乳業のストーリーをご紹介していくシリーズの始まりです!
記念すべき第一弾は、静岡県袋井市にあるデンマーク牧場さん。
ご当地ヨーグルトの多様な在り方に触れていただきたく、初っ端からかなり特殊な事例で攻めてみました。
乳製品の販売よりも、“牛を飼うこと”が第一目的の牧場とは・・・!?
デンマーク牧場の歴史
JR東海道線 袋井駅から車で約15分。
豊かな自然に囲まれた谷あいの地にデンマーク牧場はあります。
牛・羊・山羊が放牧されており、見学は自由。
羊と山羊にはおやつをあげることができるのですが、これがなかなかの人気。
冬場(12月~3月)を除く土日祝日には、小さなログハウス「GREEN GRASS」で乳製品が販売されており、放牧場を眺めながら牛乳やヨーグルト、アイス、ソフトクリームなどを味わうことができます。
牛と羊が一緒に草を食む姿を見たのはわたしも初めてで、青々と茂る木々、牧草をなでる風の音、うぐいすやコジュケイのさえずりが心地よく、ユートピアのような光景でした。
さて、みなさん気になっていますでしょうか。
わたしは気になりました。
「なぜ静岡でデンマーク???」
その秘密は牧場の創業者にあります。
実はここ、デンマーク・スウェーデン・ノルウェーからキリスト教伝来のためにやってきた宣教師たちによって開設された牧場なのです。
雪が降らず一年中放牧を行うのにふさわしい地として袋井が選ばれ、1961年に宗教法人が設立されます。1963年には約50haもの敷地で「デンマーク牧場」が始まり、翌1964年には酪農を教える「スカンジナビア農学校」も開かれました。
宣教師たちは、酪農を通してキリスト教の精神を日本に伝え広めようと取り組まれていたのです。
当然ながら教会も建設されたのですが、案内していただいた先にあったのは予想外の姿!
和洋折衷を具現化したかのような風貌!
さながらお寺のようですが、れっきとしたプロテスタント・ルター派のキリスト教会で、現役で礼拝などに使用されています。
職員さんのお話によると、なるべく日本の文化とも馴染む形で布教ができればと、意図的に和の要素を多く取り入れて建てられたそう。
そんな経緯で開かれたデンマーク牧場ですが、日本の高度経済成長に伴い状況も大きく変わり、農学校はやむなく閉鎖。宣教師の方々も後に撤退され、牧場を含む施設一式は日本に寄付されました。
かつては教会周辺の木々は伐採され、鐘のてっぺんには銀色の十字架が輝き、牧場からもその姿がよく見えていたそうですが、現在は「千と千尋の神隠し」に迷い込んだかのような世界観。
長い年月が流れたことを感じさせてくれます。
その後しばらくして、社会福祉法人 デンマーク牧場福祉会が立ち上がり、現在は高齢者福祉サービス、自立支援ホーム、精神科診療所、児童養護施設、障がい者福祉サービスといった福祉施設が開所され、その中の1つの事業として牧場が存続しています。
福祉事業の中での牧場の役割
デンマーク牧場さんは東京ドーム10個分以上の広大な敷地をお持ちですが、取材時に搾乳されていたのはわずか4頭。
福祉施設や牧草地に多くの面積を割いているとはいえ、かなりの小規模生産です。
それもそのはず、デンマーク牧場さんが牧場に求めるのは生産性よりも「牛を飼う」ということ。実は職員さんだけでなく、施設の利用者さんたちが共同で牛のお世話や乳製品の製造を担当しているのです。
労働を通して生き物に触れ、自然への畏敬や命への感謝を感じることに重きを置いていらっしゃるので、乳製品はいわば副産物。それが売れれば労働の対価にもなるので、なおよしです。
こうして作られる「デンマーク牧場のヨーグルト」は、製造数も少ないので出荷はされず、先ほどの直売所「GREEN GRASS」やオンラインショップ、地域内の定期購入者さんなどに向けて小さく販売されています。
これがなかなかパンチのある商品!
詳しくは向井のInstagramで動画付きでご紹介しております。
今時珍しいほどに酸味の効いたヨーグルトで、好きな人にはたまらない味。好きじゃない人もなぜか食べ続けるとハマってしまい、市販のヨーグルトが物足りなくなってしまう魅惑の酸味です。
余談ですが、牛と一緒に放牧されている羊からも生産物が。
刈り取った毛を材料に、施設の利用者さんたちが分業制で加工し、かわいい羊毛グッズが作られています。
まとめ
第一弾からかなり珍しい背景を持ったご当地ヨーグルトのご紹介でしたが、いかがでしたでしょうか。
今回の記事は歴史や理念のお話が中心となりましたが、デンマーク牧場さんにはまだまだ掘り下げてご説明したいポイントが多々あります。
稀有な牧場の在り方を強調するため乳製品は副次的なものと位置づけさせていただきましたが、「牛を飼う」ことに重きを置く中で大切にされていることの1つ1つが、結局は乳製品の品質や味わいに還元されていきます。
次回の記事では、デンマーク牧場さんの牛の暮らしを詳しくご紹介しつつ、ヨーグルトの味わいとの関連性にも触れていきたいと思います。
それではまた!
社会福祉法人 デンマーク牧場福祉会
住所:静岡県袋井市山崎5902-167
電話番号:0538-23-0770
- 牛・羊・山羊の放牧は自由に見学できます。
- 直売所の営業は基本的に土日祝日の10:00〜16:00ですが、雨天時などに臨時休業の可能性があります。詳細は公式サイトやInstagramでご確認ください。
公式サイト
https://www.denmark-bokujyo.or.jp/
ネットショップ
https://www.pippoec.com/shopbrand/denmark/
Instagram
https://www.instagram.com/denmark.bokujyo/