これまで日本は「四季の国」というのが常識でした。しかし地球温暖化によって、春や秋らしい日が短くなり、夏と冬の二つの季節を繰り返す、亜熱帯気候のような「二季化」が進んでいます。
こうした変化によって、熱中症対策もこれまでの手段から「二季化熱中症」に適応した、新たな対策が必要となっています。
私たちが、安全かつ健康に過ごすためには、どうしたらよいのでしょうか?
「二季化熱中症」対策について、日本一暑い街ともいわれる埼玉県熊谷市で、多くの熱中症患者の治療にあたってきた埼玉慈恵病院副院長で、救急医の藤永剛先生に「二季化熱中症」への備えについてお話を伺いました。
日本から四季が消滅…!? 春と秋が短くなる「二季化」とは
近年、夏の暑さは年々厳しさを増し、猛暑日が増加。最高気温の記録は毎年のように塗り替えられており、春にあたる3月〜5月や、秋にあたる9〜11月でも夏日・真夏日が増えています。
事実、2025年3月には夏日の日数が過去最高を記録。藤永先生が勤める埼玉県の病院では、まだ4月半ばにも関わらず、熱中症で救急搬送された人もいたといいます。
では「従来の熱中症」と「二季化熱中症」はどう違うのでしょうか?
〈従来の熱中症〉
暑さに身体が慣れてきた夏(7月〜8月ごろ)に起こりやすい。
〈二季化熱中症〉
まだ暑さに身体が慣れていない春(4月〜5月ごろ)と、暑さのピークが過ぎて身体が油断しはじめた秋(10月ごろ)、気温が急上昇したときに起こりやすい「季節外れの熱中症」。
熱中症は、体内に熱が溜まることで発生します。人体には血液が熱を運び、皮膚から発散するという、熱を体から逃がす仕組みが備わっており、その仕組みを上手く働かせることが『暑熱順化』です。
「例えば、暑熱順化ができていないと、暑くても汗がかけなかったり、汗をかいてもベタベタしているときは、ミネラルの排出が多く、熱中症のリスクが高まっている状態です」と藤永先生。
二季化熱中症予防のためには、早くから暑熱順化ができるよう、じんわり汗をかく運動を行うほか、「水分保持力」が高い飲料で水分を摂取するなど「即応」することが大切になってきます。
水やお茶だけでは不十分!二季化熱中症対策のカギは「水分保持」にあった
「水分保持力」とは、文字通りカラダの内部に水分を留める力のこと。しかし実は、スポーツドリンクやお茶などにその作用はほとんどなく、従来の水分補給だけでは「二季化熱中症」の予防には不十分です。
「乳タンパク」は水分保持力を持っている
水分保持のはたらきは、乳製品に含まれる「乳タンパク(ミルクプロテイン)」が担っていることが、研究によって明らかになっています。
つまり、お茶やスポーツドリンクで水分補給しつつ、ヨーグルトや牛乳などの乳製品を合わせた摂ることで、体内の水分を保ちやすくなり、二季化熱中症対策につながるというわけです。
カラダの水分貯蔵庫となる「筋肉」にも乳タンパクが作用する
実は、カラダの水分貯蔵庫としてもっとも重要な役割を果たしているのは「筋肉」です。筋肉量が少なければ、水分を保持できる量も自然と減ってしまいます。
そこで筋肉づくりに寄与するのが乳製品。牛乳やヨーグルト、チーズなどに含まれる「乳タンパク(ミルクプロテイン)は、ほかのたんぱく質より“アミノ酸スコア”が高いため、積極的に摂りたい成分といえます。
※アミノ酸スコア:食べ物に含まれるたんぱく質の量と必須アミノ酸がバランス良く含まれているかを数字で表した指標。乳製品は、牛乳、ヨーグルト、チーズなど、ほぼ全てがアミノ酸スコア100となる。
例えば、下の表を見てみましょう。

運動後に「糖+電解質」のみをとったグループと「糖+電解質+ミルクプロテイン飲料」を摂取したグループを比較すると、後者のグループの方が、長時間、体内の水分が保持されていることがわかります。
二季化熱中症予防におすすめ!「塩ヨーグルト」と「氷ヨーグルト」
まず、日常生活に取り入れたいのが「塩ヨーグルトドリンク」。これは端的にいうと、ヨーグルトに水と塩をまぜた「プレーンヨーグルトの水割り」のこと。ブルガリア、ギリシャ、トルコなどでは定番の飲み物として親しまれており、特に暑い時季に心地よい飲みものです。
汗をかくと、水分と同時に、塩分(ナトリウム)、カリウム、マグネシウムといったミネラルも失われます。そのため、通常の熱中症予防でも、水分だけではなく、ミネラルの補給も欠かせません。
「塩ヨーグルト」は、人体に必要な水分・塩分・糖分を一度に摂れるので、二季熱中症対策にぴったり。市販品もありますが、自宅でも簡単に作れるので、低コストで続けやすいのが魅力です。
【超簡単!!】夏バテ対策!ごくごく飲みたい塩ヨーグルトドリンク
https://yogurt-academy.com/summer-fatigue-salted-yogurt-drink/
また「氷ヨーグルト」もおすすめです。「氷ヨーグルト」とは、なめらかにしたプレーンヨーグルトを製氷皿に入れて凍らせたもの。

これをグラスに入れ、牛乳とレモン果汁を注ぎ、さらに塩をひとつまみ加えればできあがり。レモンに含まれるクエン酸には疲労回復効果もあり、暑い季節にぴったり。
“氷ヨーグルト”を作り置き。9月も続く夏バテ対策は見た目も楽しいアレンジラッシーで!
https://yogurt-academy.com/summer-fatigue-ice-yogurt/
[まとめ]二季化熱中症対策は「水分補給」+「水分保持」の両方がマスト!
藤永先生のお話をおさらいしましょう。二季化熱中症の予防では、「水分補給」と「水分保持」をセットで考えるのが基本で、どちらか片方だけでは、十分な効果が得られません。
飲み物の種類は、気温や湿度などの環境、そのときの体調によって適するものが異なるため、状況に応じて選びましょう。
