純度100%の異国メシ!モンゴル族のヨーグルト麺と、型抜きヨーグルトのホルトゥ
トン、とカウンターに置かれた丼の上には、これまで見たことのない景色が広がっていました。顔を近づけると、立ち上る羊とバターとヨーグルトの香り。
これまで「スヨリト」で出された料理は、知っている味の範疇でしたが、この一杯は100%異国の景色。聞けば、内モンゴルでモンゴル族が日常的に食べているヨーグルト麺、チャガタイゴラルというのだそう(中国語:酸奶羊肉麺片:スヮンナイヤンロウミェンピェン)。
「チャガタイとはヨーグルトを使った、という意味で、ゴラルは麺を意味します」とウリグムラさん。口に含むと、しょっぱくてミルキー。どこかモンゴルのミルクティーのような味がします。
「そうですね。これは羊のスープを使っていますが、モンゴル族はミルクティーにも羊や麺を入れて食べるので、似ているかもしれません」
ですが、モンゴルミルクティーやシンプルな羊のスープと大きく異なるのは、たっぷりかけられたヨーグルトとグラスフェッドバター。羊のスープなら中国各地にありますが、ヨーグルトとバターがスープに溶け込むと、ガラリと景色が内モンゴルになるのです。
さらにスープの中に入っている麺にも地域性を感じます。三センチ四方に切られたこの麺は、中国語で麺片(ミェンピェン)と呼ばれるもの。
「内モンゴルでは、長い麺よりも、この麺片のほうがよく食べられています。家でもよく作りますよ」
舌ざわりは、つるん。スープとともに、するすると口に入ります。
ちなみにこちらは「スヨリト」のメニューにはない一品。せっかくなので店のサービススタッフの林さんにもすすめてみたところ、「僕は苦手です」と手を付けようとしませんでした。
なぜなら、林さんは中国南方の沿岸部、福建省出身。中国北方内陸部の内モンゴル自治区とは、歴史も気候も食文化まるで違います。こういうとき、中国の多様性を感じます。
モンゴル族の型抜きヨーグルト、ホルトゥ
さらにウリグムラさんはモンゴル族の型抜きヨーグルト、ホルトゥも見せてくれました。
「ホルトゥは、ヨーグルトから作られるモンゴル族の伝統食です。ヨーグルトを鍋で加熱して、固形分がまとまったら型に入れて成形します。2~3時間置いて、型から出して乾燥させたらできあがり。乾燥させる日数は好みですね。1~2日だともっちりとして、2週間だとかなり硬くなります」
こちらも食べさせてもらうと、ほの甘く、酸味は控えめで乳香がしっかり。どことなく「ミルクケーキ」に通じる、濃縮された乳の味です。
この時は、日本の牛乳を使ったホルトゥで、砂糖とバターを加えて軟らかく整えて出してくれため、「だいぶ内モンゴルとは違う」とのことでしたが、彼の地では薄切りにして、炙って食べることが多いのだとか。
また、型にモンゴル族の伝統的な文様がついているのも印象的。
「この文様付きの型は、父や祖父がつくっていて、家では買ったことがありません。よく見るのは『スヨリト』で使っているナイフに施された文様ですね。これは、安全、幸運を祈り、持っている人を守ってくれるものです。内モンゴルでは、この文様に編んだ赤い紐を車につける老人をよく見ます」
ヨーグルトの型にも、民族の誇りが込められていたのです。
聞けば、ウリグムラさんの実家は沙漠地帯の通遼市。家で牛を飼っていたため、ヨーグルトづくりは牛の乳を搾るところから始まるのが当たり前だったのだとか。
ヨーグルトから分離させたホエイは、饅頭(具なしの中華まんじゅう)を発酵させるためにも使っていたそうです。
「ホエイを使った饅頭は、イースト菌と違って発酵時間が長く、膨らむまでに12時間ほどかかります。今ではなかなかつくる人がいなくなりましたが、私は子どもの頃に家で食べていました。どこかミルクの味が感じられるんです」
やはり「スヨリト」で食べられる料理は、モンゴル族の食文化のほんの一角。聞けば聞くほど、そこには深く広い乳製品の発酵文化が根付いていたのでした。